ビル・エヴァンス『ワルツ・フォー・デビイ』
はっきり言って、このアルバムを紹介することに、抵抗があります。
紹介したい気持ちは往々にあるのですが、何故か、…何故か抵抗感があるのである。
このアルバムは、世界に数多あるジャズのアルバムの中でも、一番人気のある(特に、日本で?)アルバムなのではないか。タイトル曲『ワルツ・フォー・デビイ』の軽妙さ、というか、情感のたっぷりさ、というか。わかりやすく特徴的なメロディなのだが、安い音楽というのとは対極にあるような、気品が漂っている。
ジャズを好んで聴く人にとっては、まず基本、と言えるようなアルバムなのだろうが、基本であって、究極ともいえるような気がする。
ピアノ:ビル・エヴァンス、ベース:スコット・ラファロ、ドラムス:ポール・モチアンの最強トリオ。…と、言われている。どこら辺が最強なのかとよく聴いてみると、なるほど、3つの楽器が、互いの音を殺すことなく、それぞれにこれでもか、と主張している。
なんというか…、絶妙なバランスなんだよなあ。3つの楽器が一斉にソロを弾いている感じなのに、そのそれぞれのメロディラインが、絶妙に絡み合いながら、曲が進行していく、というか…。
なんつーか、その、緊張感が物凄いわけですよ。音を聴いてるだけで、びんびんに伝わってくる。すべての音が、あるべきところにちゃんとあるっつーか。その、次に出すべき音を、必死に探しながら、全員が演奏してるというかね。
このアルバムは、スタジオ演奏ではなく、ライブ演奏である。きっと、この日の夜は、何かが降りていたのだろう。3人の演奏から伝わってくるのは、「今日の演奏は、凄いことになる。絶対に、凡演で終わらせてなるものか。」という、ある種の使命感と、何者かに対する畏怖の念のような、言葉で言い表せることのできない「何か」を、必死で掴もうとする姿勢である。
冒頭で、このアルバムを紹介するのに抵抗がある、と言ったが、そういうことなのか、と思う。つまり、言葉で言い表せる表現を、とっくに超えてしまっているわけですよ、この演奏は。なんか、私の場合、ジャズのCDを紹介する場合、いつもそんな感覚を抱いてるわけで…。でも、やっぱり良いアルバムは、こうやって紹介していきたいという思いも強いわけで…。
ということで、今回はこれで一杯一杯です。とにかく、「繊細」なんです、この演奏は。「繊細」すぎて、背筋がぞっとするほどなのです。ジャケ写の美しさも含めて、もう全く突っ込みどころのないこのアルバムを、ぜひお手元に置いてみて欲しいですね。
- アーティスト: ビル・エヴァンス,スコット・ラファロ,ポール・モチアン
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
- 発売日: 2014/10/08
- メディア: CD
- この商品を含むブログ (4件) を見る