アンクル・チャッキーの名盤紹介

私が名盤だと感じるCDアルバムを、次々と紹介していくブログです。読者様の心のどこかに引っ掛かって貰えれば、嬉しいです。

ブギ・ダウン・プロダクションズ『クリミナル・マインデッド』

 ヒップ・ホップの存在意義とは…。

 

 

ここ最近になるまで、私はヒップ・ホップというものが、どうしてもわからなかった。ヒップ・ホップは「悪い」感じがして、どうしてもとっつきにくかったのである。

 

私の最近の興味の中心はジャズにあるが、学生時代からの私の音楽の核は、常にロックにあった。で、一般的なイメージとして、ロックも「悪い」音楽だという認識がなされていると思う。世間の価値観に反逆し、嘘や欺瞞で成り立つ世界をひっくり返そうとするロックというものが、若者の心を捉え、いわば若者を扇動する音楽として成り立っている、と私は認識している。

 

ロックは、社会に迎合できない若者や、外れ者の音楽であり、言ってみるならば、弱者のための音楽である、と思う。精一杯奇抜なファッションをしたり、キンキンに高い声を振り絞って歌う姿は、「悪く」見せるようでもあり、そのようにすることで、相手を威嚇しているように見える。

 

ロックの「悪さ」は、振りの「悪さ」であり、そうすることでしか自己主張することができない、不器用な「悪さ」なのではないか、と思う。

 

 

一方、私が以前からヒップ・ホップに抱いていた印象は、「本物の」「悪さ」であった。いかつい黒人が「悪い」ことをするときのバック・ミュージック。黒人は肉体的な強さは、世界最強であり、ヒップ・ホップはそういう強者のための音楽である、と思っていた。

 

つまり、まとめると、ロックは弱いものが精一杯強がって演る音楽だから格好いいのであって、元々強いものがその強さを音楽で表現するヒップ・ホップの、どこがカッコいいの?なーんて思っていたのであります。

 

 

私はまだヒップ・ホップを俯瞰しきれていませんが、何とも視野の狭い音楽観だったと思います。

 

今回紹介するアルバム・タイトルは、『クリミナル・マインデッド』。日本語訳すれば、『犯罪的心理において』といったところでしょうか。

 

黒人による、暴力などによる犯罪は、後を絶たないと言います。一方で、黒人に対する差別も、未だ無くならない、と言います。

 

彼らも、「弱き」存在なのです。ラップで矢継ぎ早に繰り出される言葉は、日々積み重なっていく、社会への不満が、そのまま出てきたに過ぎません。彼らはマシンガンのような言葉の羅列を発することで、社会に「No.」を突き付けているのです。

 

私は大学生の時、興味本位から、「犯罪論」という講義を受講しました。その冒頭で、講師が言った言葉を、私は今でも覚えています。それは、「刑法は、愛の学問である。」というものでした。

 

子供の頃から、肌の色が違うというだけで、差別を受ける。不満がたまるのは、当然です。中には、それが爆発して犯罪というものに繋がってしまうこともあるでしょう。

 

彼らも闘っているのです。数多のロックンローラーが投げつけた、社会への反発心というものを、ヒップ・ホッパーたちも同じく持っているのであります。

 

強き者も、弱き者も、みんなが肩を組み合って築き上げていく世界。そんな世界が来ることはまた夢の夢なのかもしれませんが、そんな夢がある限り、ロックンロールもヒップ・ホップも、無くならないのだと思います。

 

 

今回紹介した、ブギ・ダウン・プロダクションズの『クリミナル・マインデッド』は、1987年に発表されたアルバムで、その後のラップ・カルチャーの方向性を決定した重要なアルバムです。私なんかは、凄い男っぽい、黒っぽいアルバムだなあ、と思ったのですが、そういう潔く世界を切り開いていくような感じが、とてもかっこよく感じました。ヒップ・ホップ入門としても、最適だと思います。是非お手元にどうぞ。