アンクル・チャッキーの名盤紹介

私が名盤だと感じるCDアルバムを、次々と紹介していくブログです。読者様の心のどこかに引っ掛かって貰えれば、嬉しいです。

フリートウッド・マック『噂』

史上、最もバランスのとれたバンドはどれか。

 

イエス??ヴォーカル・ギター・ベース・ドラム・キーボードにそれぞれ弩級のプレイヤーが揃っている。『こわれもの』や『危機』の時代のラインナップなんて、最強と言えるかもしれない。…だけど、少し軟弱…。

 

U2??結成当初からメンバーチェンジを一度も行うこと無く、世界のトップに上り詰めたバンドだ。…ただ、逆にそこが微妙に気持ち悪さを感じさせなくもない??なんか仲良しバンドみたいで…。いや、それはそれでいいんだけどさ。(U2ファンの方、ごめんなさい。でも私もU2、好きです。)

 

となると、レッド・ホット・チリ・ペッパーズとか??こちらも今や世界のトップバンドだが、過去を振り返ってみると、ドラッグだとかメンバーの死だとか、かなりダウナーな話題が伴って、極めてロック的ともいえる。

 

でもやっぱり、レッド・ツェッペリン??キーボーディストこそいないが、イギリスの某アンケートで、史上最高のヴォーカリスト、ギタリスト、ベーシスト、ドラマーだと思う人を挙げさせたら、それぞれの1位を取ったメンバーは、全てレッド・ツェッペリンのメンバーだったという逸話がある。…やっぱりこのバンドか?

 

レッチリも、ツェッペリンも、凄いのである。バランスもとても良い。ただ…、どのバンドにも決定的に欠けているものがあるのである。…そう、女性である。

 

大体、ロックバンドなんかに、女性を入れようという考え自体、根源的に無謀なことのように感じるが、それを奇跡的に成し遂げたバンド、しかも女性を2人も抱えて、トップに登り詰めたバンド、それが…、フリートウッド・マックである。

 

このバンドは、色々な意味で、半端無い。まず、歴史が長い。そして、メンバーチェンジの頻度がやたらと多い。ピーター・グリーンというブルース・ギタリストを中心として始まった初期。この時代も、ブルース・ロックというカテゴリーの中では、トップバンドであった。ボブ・ウェルチやダニー・カーワンといった実力派ミュージシャンが次々に入れ替わった、中期。実は私、この時期が結構好きだったりする。セールス的にはそれ程ではなかったかもしれないが、地味で乾いたポップセンス溢れる楽曲が、妙にツボに嵌ったりしてしまうのである。そして、スティーヴィー・ニックスリンジー・バッキンガムという、天性の才能を持った2人を加えた全盛期。この時期に出された大ヒット作が、『噂』である。

 

スティーヴィー(女性)はヴォーカル専門、リンジー(男性)は、ギター+ヴォーカルである。この時期の他のメンバーは、クリスティン・マクヴィー(女性)が、キーボード+ヴォーカル。そして、このバンドの屋台骨、ジョン・マクヴィー(男性)のベースと、ミック・フリートウッド(男性)のドラムである。

 

…このバンドは…、語り口が多すぎて…、どこから突いたらいいか…。…サクッと行きます。

 

まず、名前から判るように、クリスティンとジョンは、夫婦である。しかもスティーヴィーとリンジーは、恋人同士としてこのバンドに加入した。この、カップルが2つもあるという緊張感。このバンド、リーダーはミックなのだが、よくもまあ、一つのバンドとして纏め上げたものである。

 

そして、シンガーが3人もいるという多様さ。3人ともソングライターでもある。この3人を、ジョンとミック(この2人は、メンバーチェンジの激しい当バンドの中で、唯一(唯二…)最初期から現在までのメンバーである。まあ、「フリートウッド」、「マック」というバンド名の由来にもなっている2人なのであるからというのもあるのだろうが。)の2人が、リズム隊として支えている。このしっちゃかめっちゃかな感のあるバンドに、安定感をもたらしているのは、この2人なのである。

 

この2人に支えられて、3人がその個性を存分に発揮させたアルバム、それがこの『噂』である。実はこの時期、2つのカップルはどちらも破綻寸前であった。メンバー間の緊張状態はMAXであったようである。しかし、そのアルバムとしての統一感、というか完成度は、非常に高いものであった。ここが、ロックの面白さを感じさせる。本人の状態がいいからといって、すばらしい作品ができるとは限らない、むしろ逆に、本人が散々な状況の方が、より質の高いものが出来上がったりしてしまうのである。

 

ハスキーだが妖精のような可愛らしさのあるスティーヴィー、天才肌のリンジー、大人の女性を感じさせるクリスティン。この3種3様の個性を存分に味わえるので、このアルバムは本当に楽しい。この3人の実力が発揮された作品として、前作『ファンタスティック・マック』と次作『牙(タスク)』も是非聴いてほしい作品だが、アルバムとしての統一感では、『噂』がピカイチである。

 

音的には、ちょっと地味というか、抑制気味なのだが、この感じがまた飽きない。何度聴いても、いや聴き込む程に新鮮な感覚をもたらしてくれる音楽である。

 

 

…長くなりました。これでもサクッと行ったつもりです。冒頭に戻ります。本当のバランス感というのは、ちょっと突けば崩れ落ちてしまうような、トランプのピラミッドのようなものなのかもしれないな、としみじみと思ってみたりする、春の夜長でございました。