ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス『アクシス:ボールド・アズ・ラヴ』
最初にこのアルバムを聴いたのは、中学生の時だった。その時の印象を一言で言い表すなら…、「吐き気」である。
(笑)とんでもない出だしですね。いや、実際「吐き気」を催したんです。1曲目の「EXP」を聴いたとき。フィードバックしたギターの音が、遠くに行ったり近くに来たりする音響処理がなされていたわけですが、まあ気持ち悪かったですね、実際。
ジャケットの異様さと、この時の印象で、以来このアルバムを、さらにはジミ・ヘンドリックスという人物を、私はずっと避けてきた。ロック界の中でも、1,2を争う重要人物だろうが、とにかく避けてきた。
再びこの人のアルバムを手にしたのは、大学生の時である。きっかけは、意外なところで、元ちとせであった。元ちとせが、全曲カヴァーのミニアルバムを出していて、その中にジミ・ヘンドリックスの「リトル・ウイング」があったのである。そして、その歌詞に、私はやられてしまった。
今でもとにかく好きな歌詞世界なのだが、この詞の凄いところは、本当に少しの単語だけで、風に乗って空を飛んでるような心地を聴き手にさせてくれる所にあると思うんです。
この歌の主人公は、大人の女性ではなく、女の子だと思うんですね。で、その子の空想が、あちこちに飛び火する。特に、前半。そして後半では、もう一人の人物が登場する。おそらく男の子だと思うんですが、女の子が凄く優しく男の子に接しているのが分かるんですね。それで、「little wing」で飛んで行く。
本当に実際に聴いてみて欲しい1曲です。解ったようなこと書いてますが、実際ジミが、どういうイメージで描いた詞なのかはわかりません。ですが、とにかく聴き手の創造力をここまで膨らませてくれる歌詞っていうのは、なかなか出会えないと思うんです。こんな繊細な歌詞を、あんなフィードバックの男が書いていたことに、私はびっくりしたんです。
この曲は多分、相当な数の人がカヴァーしてると思います。エリック・クラプトンやスティングの名盤の中にも、この曲が入っているのを私は聴きました。でも、やっぱり本家本元の演奏が、一番です。この曲が、この『アクシス:ボールド・アズ・ラヴ』に入っているのです。
このアルバム、ちょっとやそっとのことじゃ、「飽きる」なんてことは起きそうもない。というか、今でも私は、中学生の時のあの印象を引きずっていて、なかなかこの盤に手が伸びないのも事実なので、まだまだこのアルバムを味わい尽くしていない。「リトル・ウイング」に限らず、他にもたくさんの名曲が入ってることが、今の時点でもかなり分かる。逆に言えば、これから先も長く長~く楽しめるアルバムだと、本当に期待の掛け甲斐のある代物だと思えて、とにかく大好きなのである。
あ、今、最終曲「ボールド・アズ・ラヴ」が…。…このギター…、やっぱ半端無くカッコええわ…。