アンクル・チャッキーの名盤紹介

私が名盤だと感じるCDアルバムを、次々と紹介していくブログです。読者様の心のどこかに引っ掛かって貰えれば、嬉しいです。

ジョシュア・レッドマン『ムード・スウィング』

今回は、ジョシュア・レッドマンです。ジョシュア・レッドマン…、ご存知でしょうか?

 

突然ですが、モダン・ジャズの歴史は、マイルス・デイビスと共にあった、と言っても過言ではありません。クール・ジャズを産み出し、ハード・バップ、モード・ジャズを牽引し、フュージョンにも先鞭を付け、ジャズ・ファンクにも手を出し、遺作ではジャズとヒップ・ホップを掛け合わせるなど、マイルスは、モダン・ジャズの歴史、そのものなのであります。

 

そのマイルスの遺作が、1991年発表の『ドゥー・バップ』なわけですが、同年、彼はこの世と別れを告げることになります。ジャズの、一つの時代が終わったといってよいでしょう。

 

その翌年の1992年に、ジョシュア・レッドマンは、ファースト・リーダー・アルバムを録音します。それが、1993年にワーナーから発表される『ジョシュア・レッドマン』なのですが、今回紹介するのは、1994年発表の、彼のサード・アルバム『ムード・スウィング』です。何故このアルバムなのかというと、参加しているメンバーが、物凄いからです。

 

ジョシュア・レッドマン(saxophone)、ブラッド・メルドー(piano)、クリスチャン・マクブライド(bass)、ブライアン・ブレイド(drums) 。

「90年代の黄金カルテット」と呼ばれる、鉄壁の4人による、演奏です。これら各々のメンバーは、その後、ジャズ界で大活躍する人たちばかりで、この26年後の2020年に、再びこの4人で結集したアルバムが発売されたときは、大歓迎をもって称賛をされたものです。

 

 

私は、ここに挙げた4人、ひいては、ジョシュア・レッドマンこそが、マイルス・デイビスの不在を埋める、新時代のジャズの牽引者だったと言い切りたいと思います。

 

彼の奏でる音楽は、一聴すると、古典的なモダン・ジャズの語法に則って、淡々と演奏されるジャズ音楽。しかし、過去のジャズとは違う、新たな時代のきらめきが、その音楽には宿っています。その音楽は、伝統を感じさせると同時に、時代を切り開いていく冒険心に溢れているのです。

 

彼は語ります。

「ジャズの世界では激しい戦いが起きている。「伝統」と「革新」、すなわち「過去」と「未来」、「昨日」と「明日」が、互いに牽制し合い、罵りあっている。一方が他方を受け入れず、必ずどちらかでなければいけない、と主張し合うのである。しかし、それは間違っている。ジャズの精神は、「今日」にある。過去や伝統ばかりを崇拝するのではない、ひいては、未来や革新ばかりを持ち上げるのでもない。過去を十分尊重し、未来に向けて新しいものを作り出す気概を持ちながら、「イマ」の音楽を奏でる。それこそが、ジャズの「インプロヴィゼーション」の精神なのだ。」と。

 

この言葉に、彼の音楽の精神が、見事に表れていると思います。彼は、過去を否定していません。しかし、目新しいものばかりを追い求めているのでもありません。マイルス・デイビスジョン・コルトレーンなどの先達の業績に敬意を表しつつ、新時代の音楽を奏でようと、より良い「イマ」を表現することに全てを掛けているように感じるのです。

 

私は、彼のこのような姿勢に尊敬する気持ちを持ちますし、同時に今までもやもやとして輪郭がはっきりと掴めなかった「ジャズ」という音楽が、どういう音楽なのかということを、彼の言葉と音楽を通して、はっきりと知覚することができたように感じます。すなわちジャズとは、「イマこの時」を奏でる音楽、であったのであります。

 

この「ジャズの精神」は、日々の生活における、様々な場面で必要とされる精神だと思います。つまり、「一瞬の判断」のことです。どんなに歴史を勉強しても、どんなに流行を追いかけても、一瞬の判断ミスにより、人生がどん底に落ちてしまう危険性は、誰にでもあります。一瞬の判断が全てを決める、という場面は、人生において何度か出くわす場面であると思われます。その時に勝敗を決めるのは、どれだけ過去を分析したか、ということなのかもしれません。若しくは、どれだけ時代より進んだ考えをしてきたか、ということなのかもしれません。

 

しかし、「一瞬の判断」を、どれだけ多く経験してきたか、それが一番の対策であると思います。ジャズに限らず、音楽の発表の場を与えられた人は、そのような経験をすることが多いでしょう。また、スポーツの世界でも、そのような場面は多々出くわすものであると思います。若しくは、受験競争を乗り越えてきた人も、このような経験をしてきたと言えると思います。

 

何でもよいのです。若いうちから、どれだけ心がヒリヒリとするような、切羽詰まった状況を、乗り越えてきたか、ということなのです。それを乗り越えるには、必ず「一瞬の判断」が必要だったに違いありません。

 

ゆとり教育」なんて言っている場合ではないのです(死語ですが)。かわいい子には旅をさせるべきであり、獅子に至っては我が子を千尋の谷に突き落とすのであります。 

 

ジョシュアのような「イマ」を表現するには、日頃からの鍛錬が不可欠であり、それは子供の頃から鍛錬するべきものであり、同時に死ぬまで鍛錬し続けていかなければならないものでもあります。どうしてそんな辛いことを…、という見方もあるかもしれませんが、そのような「イマ」を表現できてこそ(別に表現することに限りませんよ)、人生における真の幸福を、味わうことができるのではないか、と思うのです。

 

 

長くなりました。ちなみに言っておくと、ジョシュアは1991年にハーバード大学を成績優秀者として卒業しており、父親は、オーネット・コールマンキース・ジャレット等と共に名盤を作り上げた、息子と同じくサックス奏者のデューイ・レッドマンなのです。育ちがいいというか、羨ましいというか、「もってるな~」と感じてしまうのでありました。

 

以上。

 

 

ムード・スウィング

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