アンクル・チャッキーの名盤紹介

私が名盤だと感じるCDアルバムを、次々と紹介していくブログです。読者様の心のどこかに引っ掛かって貰えれば、嬉しいです。

ロバート・グラスパー『ブラック・レディオ』

「色」シリーズ、急遽、前回で終了とします。理由は、完全に自己都合です。大変申し訳ない。

 

というわけで、今回は、新世代のジャズ・ミュージシャンを紹介します。

 

ロバート・グラスパー

 

音楽業界には、「グラスパー以降のジャズ」という言葉があるらしい。一度は死んだジャズが、また最近息を吹き返していると言う。

 

その評判を聞いて、早速この音楽を聴いてみた。

 

「あ、ジャズだ。」と、思った。私も、ジャズを熱心に聴くようになったのは、ここ最近のことなのであるが、ジャズを「聴こう」と思って聴き始めたのは、大学生の時である。であるからして、「ジャズはこういうものだ」という定義を、言葉に表すことはまだちょっとできないが、耳の感覚的に、「ジャズとはこういうもんだ」と捉えることは、不肖、僭越ながら、出来る、と自分的には思っている。

 

確かに、50年代、60年代、70年代のジャズとは、違うのである。だけど、曲の印象が、「あ、ジャズだ。」だったのである。1990年前後に、イギリスで「アシッド・ジャズ」と言うムーヴメントがあったが、それに近いものを感じるものの、その「アシッド・ジャズ」よりも、より「ジャズ」っぽい気がする。コード進行とか、音楽的なことは、相変わらず分からないので、パス。ただ、熱さとか、落ち着きとか、パッションの大きさのようなものが、昔のジャズと殆ど相似しているように思えたのである。

 

もうちょっとわかりやすくこの音楽を解説してみると、90年代、00年代に勃興した、Hip Hop、R&B的な要素が強い。しかし、そういう要素が強いからと言って、「Hip Hop」というジャンルとして括ったり、「R&B」と言うジャンルで括ったりするよりは、「Jazz」というジャンルで括った方が、収まりが良い音楽なのである。実際、音楽的には、どういう風な違いが、そういう全体の印象の差となって表れるんだろうか。

 

で、もう一つ思ったのが、こういう手法でジャズというものと向き合ってみるとなると、………このジャンル、つまりジャズは、まだ伸びしろがあったんだな、ということである。

 

私は、「フリー・ジャズ」というものが、あんまり好きではない。芸術性は高いのだろうが、大衆音楽として誕生したジャズが、あまりに形を崩して、芸術面を押し出し過ぎてしまっている印象を受けるからである。私は、芸術と言えども、大衆性、つまりポップさを失ってしまったら、それは表現者の自己満足に過ぎなくなってしまうのではないか、という思いを抱いてしまう。芸術家と言うものも、一つの職業である。お金を貰うプロである以上、より多くの人に受け入れられるものを作り出すことが、職業としての芸術家の使命だと思うのである。大衆性を無視して、芸術性だけを追求し始めた芸術家、というものは、むしろ、芸術家としては落ち目だと思うのですね。かのジョン・レノンも、一時期そういうどツボにはまってしまいそうな気がして、ハラハラして聴いていたんですがね。私の生まれる前の話ですが(笑)。

 

さて、ジャズがまだ伸びしろがある、ということに関してであるが、やっぱり「ジャズ」という音楽は、強靭な骨格を持っているんだなあ、と。一時期は、ロックの要素を吸収しながら、生き延びたジャズ。マイルス・デイヴィスが、死の直前にジャズにHip Hopを取り入れた、という出来事があったが、長い沈黙期間を経て、その継承者がようやく現れた、と言ったところだろうか。

 

実際、この音楽は、面白い。この音楽の今後の展開を期待せずにはいられない、何か可能性のようなものを、強く感じる。一時期、「ジャズ的なもの」が世に溢れる時代が長く続いたように思えるが、今の時代に、「ジャズ」というものに真摯に向き合うと、どういう形となって表れるか、ということの答えが、この『ブラック・レディオ』の中には、ある。そして、やはり「ジャズ」は強かったのだ、ということを改めて証明したのが、ロバート・グラスパーだったのである、と思う。

 

非常に数多くの人が、これと似たようなことをして、ジャズの復権を目指していたことは、わかる。わかるが、どうしても、時代の気分に流されてしまっている音楽が多かったように思える。そういう先人たちの積み重ねの努力を基礎にして、まさしく「イマ」という時代の気分に乗せて、「ジャズの復権」を成し遂げてしまった男だと思うのですよ、このロバート・グラスパーは。

 

一点の曇りもなく、「今の時代の『ジャズ』」。ようやく、産まれた。ようやく、出会えた。これからの時代も、「ジャズ」が廃れていくことはないだろう、という確信を持たせてくれた、名盤である。

 

 

 

ブラック・レディオ

ブラック・レディオ