アンクル・チャッキーの名盤紹介

私が名盤だと感じるCDアルバムを、次々と紹介していくブログです。読者様の心のどこかに引っ掛かって貰えれば、嬉しいです。

稲葉浩志『マグマ』

この人も、ただ悠然と階段を上って来たのではない。

 

恐らく、日本の音楽業界史上で、最も成功を手にした男、稲葉浩志。ミュージシャンとしての素質を、生まれながらにして100%持っていた男。そんな風に取られてしまうことも多いだろう。

 

だが、このアルバムを聴いてみると、どうだろう。このアルバムには、稲葉浩志という1人の人間の、迷い、葛藤、混乱が、渦を巻いて溢れ返っている。「最強」と言われるこの男の、どこにこれだけの不安要素が鬱積していたのか。

 

 

 

しかし…、そうなのである。生まれながらに100%な人間なんていないのである。稲葉はこう呼び掛けているのだと思う。「俺の歌に興奮している君たちと、この俺とは、全く同じものの考え方をしているのだ。」と。

 

確かに、稲葉は数多の天からの授かり物を受けている。端正なルックス。強靭な喉。あれだけ多くの作品を作り出し、相当な数のパワフルなライブをこなすだけの体力だってそうだろう。ただ、稲葉の本当に凄いところは、そういうところではない。このジャケットにありありと現れているような、「物事をじっくりと見つめる」力である。

 

そして、このアルバムは、B'zという共同作業を離れて、稲葉が1人で作ったアルバムである。このアルバムで稲葉がじっくりと見つめた対象は…、「自分」であった。

 

「自分」を見つめるという作業は、時に困難を伴う。特に、自分の嫌な部分を見つめるというのは、本当に嫌なものだ。このアルバムでは、稲葉はその作業に真正面から取り組んでいる。そうやって引っ張り出してきた歌詞だから、その歌詞は聴き手の胸にぐさりと突き刺さる。しかしそれは、実は「癒し」の作業なのである。稲葉自身の「癒し」でもあるし、同時に聴き手の「癒し」にもなっているのだ。

 

自分の、本当に深い部分を、他人と共有する喜び。自分を含めて、様々なものを正確に見つめている稲葉だからこそ作り出すことの出来る、本当の「癒し」の音楽だと思う。

 

時に、遥か高い場所にいるような錯覚にとらわれてしまうような稲葉浩志だが、視線の高さは実は他の人たちと何ら変わりは無かった、と再認識させられ、ほっとすると同時に、その「見つめる」力はやはり誰よりも鋭く、その切れ味にやられてしまった私は、更に稲葉浩志のファンになってしまっているのでありました。

 

 

 

マグマ

マグマ