アンクル・チャッキーの名盤紹介

私が名盤だと感じるCDアルバムを、次々と紹介していくブログです。読者様の心のどこかに引っ掛かって貰えれば、嬉しいです。

ブルース・スプリングスティーン『BORN IN THE U.S.A.』

このアルバムを語る上でよく言われるところの、「間違った認識」をされているアルバムである。レーガン大統領が、選挙活動にこのアルバムのタイトル・ソング「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」を使用したことで、あたかもこれがアメリカ賛歌のように受け取られているということである。

 

このアルバムは、売れに売れた。2000万枚を超えるセールスだという。

 

私が初めて聴いたブルース・スプリングスティーンのアルバムは、『明日なき暴走』であった。どちらかと言うと、好きなタイプの音楽ではなかった。やたらと明るい曲調、熱血ソングという感じで捉えていた。そしてなんだかんだで次に手に入れたブルースのアルバムが、この作品だった。

 

好きでもないのに何故買ったのか。まあ、私は、そういう買い方をしていたのである。世の中に言われている「名盤」というものを、ひとしきり聴いてみよう、という感じである。そして、このアルバムに対する感想も、「やっぱりちょっと…」、であった。ブルース・スプリングスティーンという人は、自分には合わないタイプの大物なのだろうな、と思っていた。

 

しかしである。最近その「良さ」が解ってきた。優男のような顔立ち。アメリカ的なマッチョな体つき。べらぼうに迫力のある歌声。…別にふざけているわけではない。彼は、今までいそうでいなかった、まさに「ロッカー」の資質を持った男であった。その核は…、「弱さ」である。

 

「弱い」からこそ、体を鍛え上げる。「弱い」からこそ、野太い声でシャウトする。しかし、顔つきにはその人の心持が現れてしまうものである。彼は、非常に「繊細」なのである。

 

ブルースは、反抗しているのである。アメリカという権力に。間違った強大な力に。しかし、力に対して、力で対抗するのではない。ブルースは、力強い歌声と、繊細な詩で、多くの共感を勝ち取ったのである。冒頭に述べたように、間違った共感も少なからずあったようだが…。

 

しかし、これが彼の内面、というか人間というものの二重性、というか矛盾と言えるものなのだろうが、彼はやはり、アメリカを愛していたのである。このアルバムの最後の曲のタイトルは、「マイ・ホームタウン」。散々な出来事が毎日のように繰り広げられる、自分の住む町。でも、やっぱり帰ってくるべき場所は、この町なのである。自分はこの町で、良い面も悪い面も全部見て育ってきた。自分とこの故郷は、一体化しているのである。そして彼は、その良い面と、更には悪い面の両方を愛していたのである。

 

人間の複雑さ。それを、人と故郷との関係で描き上げた、やはり万人に受け入れられるべき、アルバムなのでありました。